キバナ 小説。 元気なオタクのお気に入り小説一覧

攻め主小説

キバナ 小説

あの時、いつかの頃、憧れていたトレーナーを見つけた。 オレさまがポケモントレーナーになる前、ガキの頃に何度かテレビで見たことのある顔だった。 遠い地方のポケモントレーナーだった。 恐ろしくポケモンバトルが強く、瞬く間に話題になり、そして何故か突然、忽然と姿を消した女トレーナーだった。 そのバトルの苛烈なまでの強さにとても強く惹かれた、いつかバトルをしたいと夢に思った人物だった。 だから顔は覚えていたし、あの頃より大人びてはいたものの、その変わらぬ姿を偶然ワイルドエリアで見つけた時、真っ先に声を掛けた。 この、オレさまが……バトルを誘った……のは、まだよかった。 だが彼女が申し訳なさそうに放った言葉に心底ショックを受けた。 「ごめんよ、バトル引退したんだ」 膝から崩れ落ちた。 ショックすぎて覚えていないが。 このオレさまが膝から。 ロトムがばっちりと膝をつく写真を撮っていたので間違いない。 なにやら色々と訳ありで遠くの地方から飛んできたらしく、なんでもとあるポケモンのメンタルケアのためにガラルに飛んできたらしい。 なのでバトルは無理だと。 そうか……なら仕方ない……とはなるか!! こんなことで諦められる理由になるかキバナ!! オレさまのレアリーグカードを渡したら、彼女は目をぱちくりとさせ、リーグカードとオレさまの顔を見合わせて「ジムリーダーさんかぁ!すごいね!」と無邪気に笑ってみせた。 これはもしかして脈ありなんじゃないか? 「なら……そのポケモンのメンタルケアが終わったら、オレさまとバトルするよな?」 「……うーん、無理!ごめんね〜!」 は!?!? 何故だ!!!!!!!! このキバナとバトル頑なにバトルしたくないトレーナーなんて存在しているのか!? 二度めのお断りにこのオレさまが真顔になった瞬間、ロトムスマホがパシャリと音を立てていた。 いや撮んな。 こんなキバナの姿を撮るな。 「なッッッンでだよ!!!!! お前、本当にバトル引退しちまったのかよ!?」 「うん」 「なんで」 「なんでと言われても…」 「辞めちまった理由はなんなんだ!? あんなに強かったのに!!」 「強くなっちゃって、調子に乗ってしまったからなんだよ、キバナくん」 オレさまの問いかけに、困ったように申し訳ないように、女は言葉を続けた。 なんなんだよキバナくんって、オレさまをこどもみたいに! 「あのまま調子に乗った私がやったこと、なんだと思う?」 紫色をしたボールを愛おしげな眼差しで撫でる姿に、何故か背筋がぞくりとした。 と、同時に何かがちくりと痛んだ。 「調子に乗った私は、とある研究施設をね。 一方的に破壊して、研究に使われていたポケモンをね、無理矢理に奪ったんですよ」 義憤に駆られて。 この子を助けるために。 だから、私はとある組織からは指名手配犯なので。 この子と一緒にどこまでも逃げなくちゃいけない。 なのでそっとしておいてくれるかい? 有名なあなたとバトルしたら、間違いなく居場所がバレてしまう。 なので。 儚げな笑顔だった。 覚悟している顔だった。 いつどうなるかわからないから、あなたとは友達になれない。 バトルできない。 だから私のことは忘れてくれるかい? 心底……心底腹が立った。 その覚悟に、その諦念に、とても腹が立ったので。 その間抜けな顔をスマホロトムに収めることにした。 パシャッ という音とともに、みるみるうちに彼女の表情が青ざめていく。 「なになになになにしてんのキバナくん!?!?」 ようやく彼女から、人間らしい表情を引き出すことができた。 ロトムスマホを奪い取ろうと詰め寄るも、オレさまの身長にはまるで届かない小柄な体が、オレさまからスマホを取れるわけがないのだ。 「おもしれー顔だったから撮っただけだけどー?」 「ちょっ!消して消して消して!」 「えーどうしよっかなー そのままSNSにアップしちゃおっかなー?」 「やめろー!キバナくんやめて!やめろー!」 「なら」 その小柄な肩を掴み、背を屈めて目を合わせた。 その瞳には動揺が浮かんでいる。 「諦めんなよ、あんたは誰よりもポケモンが好きだったはずだろ!好きだったから、あそこまで上り詰めたんだろ!!!胸を張れよ!」 「あ……う……」 「あんたがそのポケモンを助けたのも、調子に乗ったんじゃなくて、あんたがそいつを助けたいって強い思いでやったことじゃねぇのかよ!」 「……………」 彼女の瞳に戸惑いの色が浮かんでいる。 キバナは、なにもかもを諦めているあの顔よりも、ずっとこの人間らしい表情をした彼女の方が好ましかった。 「オレさまは、アンタとのバトルを望む! だからオレさまのリーグカード、捨てんなよ!」 颯爽とフライゴンに乗り、無事彼女の弱みも握ることができ、なにより憧れのその間抜けな面を写真に収めることができた。 遅かれ早かれ、オレさまとバトルすることになるだろう。 彼女に取り巻く面倒くせーやつらはオレさまが全部潰すとして。 彼女の連絡先を聞いていないということを。 「アー……やっちまった……」 項垂れるキバナの心の中に、彼女のことが埋められつつあることに、まだ本人は気付いていない。 優しくマスターボールを撫でる彼女に、胸が何故かちくりとしたことすらも、まだ気付いていないのである。 あの時の憧れが、何かに変わってゆくことすらも、まだ……彼は知らないのである。

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#1 キバナさんと私とフカマルのタマゴ

キバナ 小説

*pkmnのキバナさん夢 *とっても自己満足 *お仕事知識は創作上のご都合主義 *主義主張も創作上のもの *登場キャラの設定は捏造 ヘイトの意識も全くありません *誤字脱字あり *作者は絹ごし豆腐より繊細 [newpage] 私の彼氏はジムリーダーだ。 ジムリーダーの仕事は多岐に渡る。 ジムに訪れた挑戦者と戦うだけじゃない。 ジムリーダーは街の代表としての側面もある。 代表者として街の治安維持を担ったりする。 ガラル地方は他の地方と違いバトルが盛んで、ジムチャレンジの仕方も独特だ。 当然のようにジムリーダーが戦う回数だって多い。 つまり何が言いたいかというと、彼氏が多忙で構ってもらえない。 冷え切った晩ご飯を前にため息を溢す。 今日は帰れそうなんて連絡をもらって早四時間。 浮き上がった気分の分だけ深く沈み込んだ。 部屋の明かりも付けず、椅子にすわったままの私。 テーブルの上に置いてあったスマホロトムの画面が点灯した。 通知が一件。 どうやら彼氏がSNSを更新したようだ。 へぇ、新チャンピオンと模擬バトルねぇ……。 満面の笑みで画面に収まる彼氏と少女の姿に、ふつふつと煮えたぎる腹の奥底。 もう、我慢がならなかった。 *** 新しくチャンピオンになった少女と手合わせした帰り。 新しい戦略を思い付いて最高にご機嫌だった。 自宅で待っているであろう恋人に花なんて渡そうと思ったくらいには。 「ただいま」 しんと静まりかえった部屋。 室内の暗さにもう眠っているのかと思った矢先、視線の端に何かを捉えた。 ぱちりと部屋の電気を付ければ、それは椅子に座っている恋人の姿だった。 「おい、そんなところでどうした?」 いくら室内とはいえ、もう冬が近付いているのだ。 暖房を入れていない室内はひんやりと身体の熱を奪っていく。 日頃から鍛えているオレと違って、彼女は一般的な子だ。 そっと触った肩もずいぶんとひんやりしていた。 「身体冷えてんじゃねぇか」 「……が、…………の?」 「あ?」 「仕事と私!どっちが大事なの!」 「はぁ?」 突如としてだいばくはつを起こした彼女に驚く。 日頃、オレにニコニコと微笑んでいる印象が強かっただけに意外ですらあった。 ぼたぼたと涙を溢しながら彼女は、オレの手を強く叩き落とした。 非力な彼女が強く叩いた所で痛くもないが、どちらが大事、ねぇ。 そもそも仕事と彼女は天秤に乗っかるものなのか?彼女だってポケモントレーナーでないながらも、オレの事をずっと応援してくれていた。 オレのポケモンと恐る恐るコミュニケーションを取っている姿を何度も見た。 それなのに、どうして。 何も答えられないオレに痺れを切らしたのか、真っ赤な瞳で一度睨み付けるとオレに向かって指を突きつける。 おー、おー、今日は随分と威勢の良いことで。 「キバナさんなんてもう知らないんだからああああああ!」 「は?あ、ちょ、おい!」 こんな夜更けにものすごい勢いで家を飛び出そうとする彼女の姿に、服を捕まえようと手を伸ばす。 触れたと思った瞬間、彼女の身体は消えた。 その場に残るのは、緑色のころんとしたぬいぐるみ……これは、みがわり?驚いた表情のオレを彼女は鼻で笑って玄関の扉を開く。 「実家に帰らせていただきます!」 そういって彼女は消えた。 そのままの意味だ。 彼女は消えた。 閉まる直前にドアを開いたけれど、どこにも姿が見当たらなかったのだ。 これは一体、どういうことなんだ。 *** 言ってしまった。 やってしまった。 テレポートで転移した先でくしゃみをしながら考える。 登山者を拒むように深く深く降り積もる雪。 ここはカントー地方とジョウト地方に聳え立つ山。 シロガネ山にあるポケモンセンターに私はいた。 テレポートはフィールド上で展開すれば最後に利用したポケモンセンターへと飛ぶことができる。 私がここを利用したのはもう何年前のことだろうか。 かつての光景を思い出し、胸がずきんと痛む。 「ううっ、寒い。 ぴーちゃん中に入ろう」 私の手を握り、こくんと頷いたピンクのポケモンはピクシー。 私の手持ちの子だ。 そう、彼氏たるキバナさんには言っていなかったが、私もかつてはポケモントレーナーだったのだ。 ポケモンセンターへと入れば、暖かい空気が身体を包む。 緊張状態にあった気持ちも少しだけ緩んだ気がした。 センターの利用者に気付いたのか、ぱたぱたと足音が近付いてきた。 「あら、こんな時間にどうしたんですか?」 「ジョーイさんこんばんは。 えへへ、ご無沙汰してました」 「はい、お久しぶりです。 随分とお見かけしませんでしたが、また旅に?」 「ガラル地方で暮らしてたんです」 「まぁ、ガラル!」 「そこで一緒に暮らしてた彼氏と喧嘩しちゃって……」 ポケモンセンターには私以外の利用者はいないようで。 ジョーイさんは手早く業務を終了させると、暖かなココアと共に私の隣へ座ってくれた。 ぽんぽんと背中を優しく撫でる手に、心の内に溜め込んだ言葉が自然と口から溢れてしまう。 私が彼氏に構ってもらえなくて寂しかったこと。 それでも、彼が好きだからずっと我慢していたこと。 でも、ついにぶち切れて家出してしまったこと。 途中からぐずぐずと泣き出してしまった私にセンターのラッキーがふかふかタオルを渡してくれた。 「それで、つい仕事と私どっちが大事なの!と……」 「あらあら、言っちゃいましたね」 「お兄ちゃんにピカちゃんと私どっちが大事なのって聞くのと同じことですよねぇ」 「どっちも大事だけど」 私とジョーイさんの恋バナに混ざり込む無粋な男の声が響いた。 聞き覚えのある声に振り返れば、このくっそ寒い雪山においても半袖な山ごもり系ポケモントレーナーの姿があった。 「お兄ちゃん!」 「ピクシーから連絡もらった。 ……泣いたのか?」 ジョーイさんと話している間、姿を見ないと思ったら勝手にポケモンセンターを抜け出して兄の所へ行っていたのか。 泣き腫らした瞳の私を慰めるように一鳴きするとピクシーはボールの中へと戻っていった。 兄の真っ赤な瞳がじっと私を見つめる。 無口で無表情だと言われることの多い兄だが、私にとってはとても感情の読みやすい兄だった。 私のお揃いの赤い目はいつだって気持ちを雄弁に語っていた。 そして、今、うちの兄はとても怒っている。 少し歳の離れた妹の私を兄は大変可愛がってくれている。 些細なことで喧嘩して一向に泣き止まない私のために、おつきみ山でピッピを捕まえてきてくれたあの日から知っている。 「誰にやられた」 「いや、あのね……」 私が誰かに泣かされたって前提で話を進めてくる兄に口元が引き攣る。 そして、兄の肩に乗っかり真っ赤なほっぺたからぱちりぱちりと電気を迸らせるピカチュウ。 そんな一人と一匹の姿を見ていたら、とっちらかっていた心も落ち着いてくるってものだ。 大きく息を吸い込んで吐く。 ぱちりと開いた視界には、心配そうに瞳を揺らす兄の姿があった。 「お兄ちゃん、大丈夫だよ」 「でも……」 「これは、私のバトルだもの」 たくさん泣いて、お兄ちゃん達を見たら何だかすっきりした。 そうだ、私にも掛け替えのない相棒達がいたじゃないか。 私を信じてずっと付いてきてくれた子達。 そして、私の身勝手な気持ちを汲み取ってくれた子達。 「お兄ちゃん、私の子達引き取っていってもいい?」 「……!ああ、あいつらも随分と寂しがっていた」 「そっか。 待っていてくれたんだ」 「当たり前だろう。 それが相棒だ」 「うん、そうだよね。 ……ジョーイさんパソコンお借りします」 兄に預けていた大切な相棒達が、私のボックスへと転送されてくる。 ころりと手元に転がったモンスターボールに愛おしさが溢れる。 「ごめんね、みんな。 また私と一緒に旅をしてくれる?」 私の情けない声に呼応するようにボールが揺れる。 もう二度と離れない。 キバナさんと付き合う前、私はごりっごりのトレーナーだった。 おつきみ山のラッキーガールといえば私のことである。 カントー地方マサラ出身。 先に旅に出た兄や幼馴染みと同じく、私も十歳になった日に相棒のピッピと共に旅に出た。 カントー、ジョウト、イッシュ、たくさんの土地を巡った先で、私は初めての恋を知った。 初めての恋は叶わない。 古くからの言葉の通り、私の恋は敗れた。 たった一つの呪いをかけられて。 『男より強い女なんて可愛くない』 目と目が合ったらバトルの合図というのがお約束なトレーナーだった私にとって、それはとてつもない呪いだった。 失恋の痛手も相まってこうかはばつぐんだったし、急所にもあたっていた。 呪いは私の心を蝕み初めにバトルを恐れるようになった。 草むらを怖がるようになった。 ボールを握る手が震えるようになった。 相棒達に触れることを……恐れるようになった。 そうして、何よりも大切だった相棒達から離れることを決めた。 信頼できる兄に大切な相棒達を預けた。 ピクシーも預けようとした時、ボールから飛び出たピクシーは嫌だと首を振った。 私にしがみついて離れなかった。 つぶらな瞳から零れ落ちる涙に、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。 結局、安全のためにと兄に説得されてピクシーの入ったボールだけを持ち、私はガラル地方へと引っ越した。 ガラルでは、ただの一般人として普通に暮らした。 ポケモンとの関わりのない事務職を選んで、トレーナーだった自分を消し去った。 時折、街角で目にするトレーナーとポケモンの仲睦まじい姿に目を逸らして。 そうしてナックルシティでキバナさんと出逢い、二度目の恋に落ちた。 また悲しい思いをしたくなかったから、自分がポケモントレーナーであったことは伝えていない。 彼が楽しそうにポケモンのことを話す度、自分の手持ちのことを思い出しては少しだけ寂しくなった。 キバナさんがポケモンを勧めてくることもあったけれど、手持ちだった彼らのことを思うと、新しい子をゲットするのは裏切りだとさえ思った。 彼の手持ちポケモンと少しずつ触れ合うことはすごく後ろめたさを感じた。 そうして誰にもいえない寂しさや悲しみ、私はキバナさんを選んだのにという自分勝手な想いが混ざり合って噴出してしまったんだと思う。 最悪の形でだけど。 仕事と私どちらが大事なんて、なんて馬鹿な質問をしたのだろう。 とっくに分かっていた。 彼がポケモンを大好きなこと、仕事に誇りを持っていること、バトルを心から楽しんでいること。 だって、私もその気持ちをずっと持ち続けていたもの。 だから、彼がポケモンと戯れている度、自分のポケモンを思い出して辛かった。 彼が仕事をしていれば、自分の今の姿を思い出して悔しかった。 何より、バトルしている彼を見ると、自分の昔を思い出して、あんな風になりたかったなんて。 いつも心のどこかで思っていた。 彼が私以外の女の子を可愛がっていることに嫉妬していないと言ったら嘘になる。 それ以上に私も彼とバトルしてみたかった。 心の躍るようなバトルを。 もう一度で良いから彼と話がしたい。 呆れられてもいい、怒られてもいい、ちゃんと自分の気持ちを伝えなきゃ。 振られてしまっても仕方ないと思う。 それでも、彼とバトルをしてみたいという欲はなくならない。 ああ、やっぱり私もお兄ちゃんの妹だ。 マサラを出たあの日のように、勇気を出して一歩前へ踏み出さないといけない。 だから、私は決めた。 七つのジムを勝ち抜き、彼の前に立つ。 身に付けていたサングラスを外し、被っていた帽子を脱ぐ。 乱れた髪を手で直しながらジムスタジアムを見渡せばたくさんの視線が突き刺さった。 一番突き刺さっているのは目の前のジムリーダーから。 私の姿に驚いているのか、これでもかと目を見開いている彼に微笑む。 彼の家を出てから長かった髪をばっさりと切ったし、ポケモン達と外を駆けずり回ったから日にも焼けた。 ジムチャレンジ中はずっと変装していたから私に気付かなかったのね。 「キバナさん。 私とバトルしましょうか」 「どうして……」 「どうして?チャレンジャーがジムリーダーの前に立つのは当然でしょう?」 「……チャレンジャーなんて言うな!お前はオレの恋人だろう」 「まだ恋人だって言ってくれるんだね。 ありがとう。 ……それでも、私はポケモントレーナーだよ」 「……!分かった。 なら、オレは……、オレさまはジムリーダーとしてお前の前に立つ」 いつも画面を通して見掛けていた余裕の笑みはすっかり抜け落ちて。 真剣な顔で宣言する彼に、少しだけ恐くなる。 けれど、私にはずっと一緒に旅をしてくれた心強い仲間がいる。 それに、強い相手ほどゾクゾクするってものでしょう。 手の中にあるボールにそっとおまじないのようにキスをする。 もう、恐くない。 目の前にあるのは心躍る楽しいバトルだけ。 さぁ、行こう。 彼と視線を絡ませる。 目と目が合えば?それは、バトルの合図。 「いこう、みんな」 会場の雰囲気の高ぶる気分のまま、二つのボールを空に投げた。 *** 目の前のチャレンジャーが恋人とかどんな冗談だ。 愛しの彼女に、夜中に実家へと帰られた後、自宅の冷蔵庫に入れてあった料理に気付いた。 いつもよりちょっぴり豪華なご飯。 いつも彼女が作ってくれるご飯が質素っていうわけじゃない。 オレの健康を考えて作ってくれている料理だ。 ここ一週間は仕事に時間を取られて彼女とご飯を共にしていなかった。 それで夕方に帰れそうだと連絡した。 ああ、そうだ、オレが彼女に期待させたくせに、約束を破った。 脳天気に花を買って浮かれてる場合じゃなかった、彼女に一分でも一秒でも早く逢って遅くなってごめんと謝罪するべきだった。 後に悔いても遅かった。 一週間もすれば戻ってくるだろうと思っていた彼女は本当に実家に戻ってしまったのか未だに帰ってきてはくれない。 何より電源を切ってしまっているのか、電話も繋がらない。 今すぐ彼女を探しに行きたかったけれど、ジムリーダーとしての責務がそうはさせてくれなかった。 一月、二月と時間が過ぎれば過ぎるほど、気持ちは落ち込んで改めて彼女がオレにとってどれだけ大切な存在なのかを突きつけられた。 だからこそ、彼女を迎えに行くために休みを取ろうと必死に仕事をこなしていたのに! 大きなサングラスを掛けて目深に帽子を被ったチャレンジャーが自分の探していた人物だなんてそんな。 驚き過ぎて、ガラル中に中継されていることも忘れて間抜け面を晒すところだった。 すっかり短くなった髪を風に揺らして、日に焼けた顔で笑っている彼女に腹が立った。 もちろん、オレにポケモントレーナーであったことを隠していたのも怒っている。 人には色々な事情があるのは分かっているが、彼女に頼りにされていなかったことが、信頼されていなかったことがとても苦しい。 こんなに寂しい思いをしたのはオレだけか。 お前は、オレと離れて寂しくはなかったのか。 こんなにオレを腑抜けにしておいて。 心をかき乱しておいて。 酷い女だ。 酷い女は、オレの恋人としてではなく、ポケモントレーナーとして立っているという。 そうか、そうか。 オレではなく、オレさまに逢いたかったのか。 これは一度じっくりと話をしなくてはいけない。 オレにとって君がどれほどの存在なのか。 表情の抜け落ちたオレさまに気圧されたのか、彼女の手が震えている。 ああ、そんなに震えて可哀想に。 けれど、手加減は出来そうにない。 彼女が愛おしそうに口付けるボールにすら嫉妬しそうだ。 一呼吸置いて、オレさまを見据える赤い瞳は気迫に溢れていた。 ああ、たしかに目の前の恋人は恋人じゃない。 一人前のトレーナーだ。 なら、良いだろう。 受けて立ってやる。 ゾクゾクと快感が駆け抜けるままボールを握る。 彼女の投げたモンスターボールから飛び出たのは、ラプラスとピクシー。 ドラゴン使いのオレさまにフェアリーとこおりを持ってくるのは悪くはない。 けれど、オレさまのポケモンが全てドラゴンタイプかと思ってもらうのは困る。 実に短慮だ。 フライゴンとギガイアスをフィールドに放てば、ギガイアスの特性であるすなおこしで砂嵐が巻き起こる。 バトルが長引けば長引くほどHPが減っていく。 さあて、どう出るチャレンジャー。 吹き荒れる砂嵐にぺろりと唇を舐めた。 *** 何度も言うようだが、私はカントー地方の出身である。 そう、あのカントーだ。 ピクシーだっておつきみ山で出逢ったし、ラプラスだったカントー地方からの仲間だ。 そう、つまり最初からずーっと旅をしてきた。 「キバナさん、私ね、すっかり忘れちゃってた。 旅をしてた頃の気持ち……だから、思い出させてくれてありがとう」 「オレさまがどんな思いで毎日過ごしてたか知ってて、それを言うのか?」 「それは、私も一緒だよ。 だからあの日、家を飛び出して、今ここにいる」 「……」 「らぷちゃん、フライゴンにれいとうビーム。 ぴーちゃん、ギガイアスに……じごくぐるま!」 「じごくぐるまだと!」 色んな地方を旅していれば、新たに見つかったタイプもあれば技だってある。 そして、廃れた技もある。 ガラル地方にもピクシーは存在するが、じごくぐるまを覚えることが出来るピクシーは存在しない。 カントー地方出身のノーマルだった頃のピクシーだからこそ覚えている技だ。 しかもうちの子が身に付けた特性はマジックガード。 すなあらしなんて恐くないのである。 フライゴンとギガイアスを一発で沈めた二匹は楽しそうに鳴き声を上げている。 じごくぐるまの反動でピクシーは傷を負っているが、つきのひかりで回復することができるので問題ない。 「そうか、たしかお前カントー出身だったな」 「正確に言うとマサラの出身、かな」 「マサラ……たしかにお前にはよく似合う色だよ」 サダイジャとジュラルドンが飛び出してくる。 彼がジュラルドンをダイマックスさせれば、ずしんと大地が揺れ目の前に巨大なポケモンが現われた。 生のダイマックスは初めて見るが、メガシンカやZワザとも違ってなかなか壮観な光景だ。 しかしいつまでも見惚れているわけにもいかない。 サダイジャはともかくとして、ダイマックスしたジュラルドンは厄介だ。 攻撃力もHPも何もかもが跳ね上がった状態を耐えなくてはならない。 「ぴーちゃん、ちいさくなる!らぷちゃん、サダイジャを沈めなさい!」 私はダイマックスバンドを持っていないからダイマックスさせることは出来ない。 けれど、私はピクシーなら耐えきれると信じている。 各地方を巡って、お兄ちゃん達とバトルを繰り返してきた。 私が私のポケモンを信じてやれなくてどうするのだろうか。 「そうはさせるか!ジュラルドン!」 直前に使用したスピーダーの影響かタッチの差で私の命令を受け、れいとうビームでサダイジャを沈めたラプラス。 そのままジュラルドンのダイロックを喰らって倒れる。 ごめん、ありがとうね。 光りに包まれてラプラスはボールに戻っていく。 腰に付けたホルダーで今か今かと出番を待つ相棒達がボールを震わせている。 やっぱりバトルは楽しい。 心の底からゾクゾクしている。 目の前の大好きな人だってこんな気持ちをずっと味わっていたのだ。 そりゃ楽しくて私との夕飯なんて忘れちゃうわ。 仕事と恋人なんて天秤に掛けた私は本当に馬鹿だった。 だから、バトルが終わったらごめんなさいってちゃんと謝ろう。 ホルダーから新たなボールを放り投げる。 私が手放していた間もお兄ちゃんの元でずっと修行に励んでいた頑張り屋さんな君に決めた! 「ボンちゃん!こころのめ!」 どしんと地響きを立てて舞い降りたニョロボンはやる気十分だ。 ニョロボンには次のターンまで生き残ってもらわなければならない。 こちらを振り向いたピクシーに頷く。 耐えてよ、ピクシー。 「ぴーちゃん、このゆびとまれ!」 ピクシーの発動した技によって、ニョロボンは攻撃を回避できる。 ジュラルドンの発動したダイロックを何とか堪えているものの、HPは随分と削られてしまっているようだった。 でも、これで終わりだ。 「ボンちゃん、決めるよ!じわれ!」 ジュラルドンの立っている地面が割れた。 本来はものすごく命中率の低いこの技もニョロボンのこころのめと組み合わせることで必中となる。 一撃必殺の技を喰らったジュラルドンがぐらりと身体を傾かせて倒れると元の大きさに戻った。 「勝者、チャレンジャー!」 大歓声の中、勝利の喜びに浸って、ぎゅうっとピクシーとニョロボンに抱き付いていれば、キバナさんが近寄ってきて手を差し出している。 ああ、試合の後は握手だった。 浮かれて射る場合じゃなかった。 「おめでとう」 「ありがとうございます。 それと、酷いこと言ってごめんなさい。 「……んっ、ふ……ぁ」 「っは、恋人のオレを寂しがらせた罰だ」 「本当にまだ、恋人でいていいの?あんなに酷いこと言ったのに?」 「当たり前だろ」 「だって、勝っちゃったよ?強い女の子は可愛くないんでしょう?」 「バーカ、あれくらいでこのオレさまに勝ったと思うなよ。 それにな、どんなお前でもオレにとっては世界で一番可愛い女なんだよ。 それくらい理解しとけ」 デコピンされた額はじんじんと痛むけれど、嬉しくて堪らなくなって目の前でニカッと笑う彼氏に思いっきり抱き付いた。 ぎゅうぎゅうと抱き付いている光景が中継されていることには、次の日新聞にデカデカと載ったことで気付いたけれどもう遅かった。 *** 彼女が家に戻ってきて十日。 あの時の映像が次の日に新聞の一面記事を飾ることにはなったが、彼女がオレの元に帰ってきてくれたので良しとする。 ……そう、良しとしたかったのだけれど。 『バトルシャトーなう』とSNSに上げている彼女にため息を吐く。 バトルの後、彼女と話をして今まで寂しい思いをさせてしまったことをきちんと謝った。 その上でこれからはもっと彼女との時間を取るように努力することを伝えたが。 ……きちんと伝えたはずなのだが。 「え、良いよ。 私も何だか楽しくなっちゃって」 「は?」 「ガラルのジム巡りしてたら火が着いちゃった。 この子達とも久々に逢ったから一緒にいたくて……」 そう言ってボールを大事そうに撫でる彼女に、どうしてオレの傍にいろなんて言えるか。 言えるわけねぇ。 ポケモンと一緒に空を飛んで地方を駆け巡る彼女に、胸の痛みを覚える。 このまま帰ってこないんじゃないかという不安すら芽生えた。 失ってからでは遅い。 彼女がいなかったあの期間に嫌っていうほど理解した。 これ以上は我慢出来そうにない。 ポケットから小さな箱を取り出す。 今夜、これを渡そう。 彼女はオレのものだといわんばかりに緑色の石が填まったこの指輪を。 その後、彼女の家族に逢いに雪山を訪れたその先で黄色い悪魔と赤い男にバトルを挑まれることなどまだ知らない。

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サトシとユウリとキバナが無敗のキングを倒すためにガラル地方で旅する小説

キバナ 小説

「ただいま〜!」 「ただいま、じゃ、ね、え、よ!」 玄関が開く音がしてキバナがそこへ向かってみれば、サングラスとマスクを外すガラル地方一の有名人の男が立っている。 溜息を吐きながらキバナが手を差し出すと、その男、ダンデは脱いだ大きめのモッズコートを手渡し、一つに束ねた紫色の長い髪を下ろして漸く見慣れた姿になった。 見慣れた姿といってもテレビや雑誌や、スタジアムで見るマントもなければユニフォーム姿でもない、黒いカットソーにジーンズというチャンピオンのイメージからかけ離れた地味なラフスタイルだが。 「ここ、オマエの家じゃねえんだけど?」 「知ってる。 」 助かってるよ、とカードキーをひらひらとキバナに見せつけて、室内で靴を履くことを好まないダンデは玄関側にブーツを脱ぎ捨てると部屋の奥へと進んだ。 「飯は?…一応、あるぜ。 」 「食べる。 」 「冷蔵庫に入ってるから自分で温めろ、オレさまは風呂に入ってくるから。 」 「分かった、ありがとう。 」 まるで自分の家であるかのように迷いなく棚から薄紫色のシンプルなデザインの食器を出す姿に、キバナは呆れたように肩を竦めてバスルームへ向かう。 このチャンピオンはこうしてほぼ毎日、キバナが一人で暮らすマンションにやって来るのだ。 オレンジ色を基調にしてブルーの小物で彩られていたキバナの部屋のところどころに、濃いパープルが散らされるようになったのは、仕事帰りによく遊びに来た彼に、玄関を開けに行くのが手間だからとカードキーを渡してからになるだろうか。 ソファーにはダンデが昼寝をする際に使用している質の良い紫色のブランケットとクッションが置かれているし、食器も薄紫色のものが揃えられている。 洗面台にはオレンジとパープル色のカップにそれぞれ同色の歯ブラシが揃えられていて、一人暮らしの男なのに勘違いされそうだと苦笑したキバナに、「写真に写さないようにしないとな!」とダンデが肩を叩きながら大袈裟に笑ったのはもう三ヶ月以上も前のことだ。 バスタブから上がって部屋着に着替えたキバナがバスルームから出ると、ダンデは袖をまくり上げてシンクで食器を洗っている最中だった。 「べつにいいんだぜ、置いてても。 」 「飯美味かった、ありがとう。 」 「おー、ポケモンバトル一回分だ」 「キバナとのポケモンバトルはいつでも大歓迎!」 「上等、次こそオマエの無敗記録を止めてやるよ!」 そう言って笑い合ってじゃあ次はオレがとダンデがバスルームに入って行った。 それを見送って、キバナはお気に入りのソファーに横になってテレビのリモコンを手に取り電源を入れる。 ポケモンバトルの番組でもやっていないかとチャンネルを切り替えているうちに先程までシンクで笑っていた男の顔がテレビにでかでかと映り、キバナはチャンネルを変える指の動きを止めてリモコンをテーブルの上に置いた。 それは有名人をゲストに招いて質問をするガラルでは有名なバラエティ番組で、ダンデはインタビュアーに向かい合うように座り質問一つ一つに丁寧に答えているようだった。 その質問のどれもが、ダンデの好きなレストランのメニューだとか帽子を集めるのが趣味だとか、キバナの知り得ている内容のものばかりであまり興味を引かれない。 『好きな人とかいらっしゃるんですか?』 『ポケモンバトルが好きな人は皆好きですね!』 『はは、ダンデさんらしいですね。 好みのタイプとかあったりするんですか?』 『あー、強いて言うなら、うーん、バトルが強い人がいいです。 』 あと道に迷わない人、オレが方向音痴なのでと付け加えたダンデにスタジオが笑いに包まれる。 「へえ?」 この話はキバナも聞いたことがない。 かなり昔、彼女でも作らないのかとからかった時に微妙な反応をされた時から、キバナの中でダンデという男は「ポケモンバトルにしか興味がない男」というイメージであったしそれは今も変わりないと思っていた。 普段ダンデが口にしない話題は大いにキバナの興味を誘って、近くにあったパープルカラーのクッションを抱き抱えながら、普段はあまり観ないバラエティ番組に集中してしまった。 「あぁそれ放送今日だったか。 あまり見るなよなあ。 慣れないし、結構恥ずかしいんだぜ。 」 バスルームから戻ったダンデは部屋着に着替えていて、キバナが横になったソファーの肘掛けに腰を下ろした。 「いいじゃねえか。 こういう仕事もお似合いだぜ、チャンピオン。 」 体を起こして、ダンデのしっとりと濡れた紫色の髪に触れた。 濡れていても髪はところどころ跳ねていて、可愛らしい髪質だとキバナは笑った。 くすぐったいのか細まる金色の瞳もまた可愛くて暫くそのまま触れて眺めていると、キバナのその手にダンデの手が添えられる。 「明日も早いから、オレは寝る。 キバナはどうする?」 「オレさまももう寝るよ。 」 「ん、」 ダンデの指先がキバナの手の甲を撫でて離れた。 立ち上がったダンデはそのままベッドルームへ。 キバナもテレビの電源と、室内の明かりを消してからダンデの後を追う。 いつからだったか、寝るベッドも一緒になった。 最初の頃はダンデが遠慮してソファーに寝ていたが「男同士だし別に気にしなくていいだろ」と共寝することを提案したのが始まりだった。 ベッドをもう一つ購入してもよかったが人の家をホテル代わりにしている男の為にベッドを買って衣装室にしている部屋をわざわざ潰す気にもなれなかったし、キバナ自身もうワンサイズ上のベッドの購入を検討していたことをダンデに伝えると暫く悩み始めたので「ソファーで寝ると体に良くないしポケモンバトルに影響が出るぜ?」と言えば渋々了承してくれた。 「もうちょっと奥、行け。 」 先にベッドに入っていたダンデの体を無理やり奥にやって、キバナはその隣に潜り込んだ。 ベッドサイドに置かれたリモコンでベッドルームの照明を落とすと、伸ばされたダンデの手が布団越しにキバナの体を優しく叩いた。 「おやすみ、キバナ。 」 「おやすみ。 」 ダンデの腕はそのままキバナの体の上に置かれたままで、キバナが「重い」と一言その腕を掴んで退かすと、ダンデは静かに笑ってその腕を引っ込めた。 「そういえばオマエさ、」 「ん〜?」 「たまにはちゃんと家、帰ってやれよ。 」 「はは、そうだなあ。 」 「それから、」 「お〜」 「好きな奴ができそうなら、ちゃんとそっちも大事にしてやるんだぜ?」 オマエは昔っからポケモンバトル一直線だからなあと笑って、先程のバラエティ番組に映ったダンデを思い出す。 好きな人だの好みのタイプだの、恋愛絡みの話題になった際に金色の瞳が優しく細まったのをキバナは見逃さなかった。 あれはいるなあ?そういう人が。 ライバルであり友人の勘だったが、ダンデは素直な男だ。 すぐに表情に出て分かりやすい。 こうして共に寝ることも、彼のために食事を多めに作っておくこともいずれはなくなることだ。 渡したカードキーを返されることを考えると少し胸がじくりと痛んだが、彼がいる賑やかな部屋が、いずれ静かなただの一人暮らしの男の部屋に戻ること、部屋のあちこちに散りばめられたパープルが少しずつなくなって、オレンジとブルーの見慣れた色の部屋にいつかは戻るのだ。 「しっかしオマエもオレさまに遠慮せずに恋愛相談くらいしてくれてもいいじゃねえか、ガラルの良いデートスポットくらいササッと調べて、や、」 キバナの言葉を遮って、ベッドのスプリングの軋む音が響いた。 隣にあった熱が肩に添えられて、キバナの体に影を落とす。 水浅葱色の揺らいだ瞳を、金色の瞳が闇の中、熱を持って見下ろしていた。 「オマエ、」 「これだけ一緒に居ても気付かないのか」 なあ、と掠れた声は聞いたことのないもので、蜂蜜のような甘さを持った瞳は見たことがない。 まるで少年のような心を持ったまま大人になったようなこの男の、愛おしげに歪められたこの顔を、キバナは、知らない。 知らなかった。 肩にかかった手はそのままに、空いた手が頬から滑るようにキバナの顎にかけられる。 ザラついた親指が唇を掠めて、熱を持った。 「ダン、」 名を呼んだ声は熱に捕われて、闇に溶けるように消えた。

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