あんさん 腐る スターズ pixiv。 #あんさん腐るスターズ! #守沢千秋 SWEETEST MILKTEA

#あんさん腐るスターズ! #天祥院英智 カタチのないもの【英泉】

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「そこ、俺の席なんだが」 右側から声がして見ると、眼鏡をかけた男がショルダーバックの紐を胸の前でぎゅっと握り締め、恐る恐る羽風に話しかけてくる。 誰、という疑問が口から出そうになったが、知っても仕方ないと思い直し、ニコリと笑顔を貼り付けて席を立った。 「あ~、知らなかった。 ゴメンね~」 「……いや」 「ところで、俺の席は?」 「この後ろだ」 親切にどうも、と名前も知らない男に礼を言い、後ろの席に座る。 教室に入るのは一週間ぶりだ。 羽風はすっかり男の存在を忘れて窓の外をぼんやりと眺める。 留年にならない程度に授業をサボって、まともに学校へ行った例がない。 そのため、席替えが行われていたことすら知らなかった。 それもそのはず。 クラスメイトとは殆ど関わっていないから、そんな些細な情報なんて羽風の耳には入ってこないのだ。 「羽風、もうすぐ授業始まるぞ」 春の日差しに包まれうとうとしかけていた羽風に、前方から先程の男の声が聞こえる。 うるさいなぁ、と思いながら、羽風はふて寝を決め込んだ。 男はそれ以上何も言わない。 教室に教師の声が響く。 いつの間にか本当に寝ていたらしい。 頭を起こし前を見ると、姿勢良く教師の話を聞き、必死にノートをとる焦げ茶色の髪が目に入った。 周りを見渡すと自分と同じように机に伏せて眠っているやつ、ただ話を聞き流しているやつ、目の前の男みたく真面目に授業を受けるやつ。 圧倒的に前者二つのほうが多い。 ここは、アイドル養成機関。 普通科で受けるような授業は、このアイドル科ではサブ教科でしかないのだ。 秋になってもまだじんわりとした暑さが残る。 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、羽風はグッと上体を反らした。 「守沢くーん、ちょっと」 廊下から聞こえた声は上級生のものだ。 遠くで椅子がガタガタと音を立てる。 「はい!今行きます!」 教室を飛び出ていく彼は、上級生から呼び出しに応じたらしい。 会話を聞く限り、恐らく、使い走りとして。 まぁ、自分には関係ないことだ。 羽風は荷物を全て持つと、立ち入り禁止となっている屋上へ足を運んだ。 購買で買ったカフェオレを飲んでいると、しばらくして扉が開く音がした。 誰か入ってくる。 羽風が陰に隠れて、こっそりと様子を窺っていると、赤色のネクタイをした生徒が入ってきた。 キョロキョロと辺りを見回しながら、男が弁当箱を広げているのを見て、おや、と首を傾げる。 放課後であるというのに、この男は今頃ランチなのか。 食べる時間がなかったのか、それとも。 そこまで考えて、止めた。 関わる気など更々ない。 早く食べてどこかへ行ってくれ、という願いも虚しく、その男はスマートフォンから音楽を流し、ひとりでダンスの練習を始めてしまった。 授業の課題曲だ。 羽風は一通り見ただけで殆ど覚えてしまったから、大して練習もしていないが、眼鏡をかけたその男は何度も何度もフリを確認している。 一生懸命、なんだけど。 軸足がずれている。 左足を踏み出すタイミングがワンテンポ遅い。 2カウントでターンするところを1カウントで回っている。 あぁ、バランスが崩れた。 へったくそ。 羽風が出した結論はそれだった。 マフラーに顔をうずめながら、羽風は校門を目指した。 こんな寒い日はさっさと温かいカフェにでも入って、女の子とお茶するのに限る。 スマートフォンで彼女とやり取りをしながら歩いていると、突然教師の怒鳴り声が聞こえた。 「何をやっているんだ『流星隊』は!!」 「す、すみません」 ふと視線を飛ばすと、眼鏡をかけた茶髪の男が恐怖のあまり縮こまっている姿が目に入る。 話の内容からして、どうやら『流星隊』の先輩が何か悪さをしたらしいことは羽風にもわかった。 元々評判がよろしくない『流星隊』は、教師たちにも疎まれている。 だからといって、あの真面目そうな男が教師から怒鳴られるようなことをするとは思えなかった。 きっと、先輩たちの犯した罪をなすりつけられでもしたのだろう。 教師もそれは知っていると思う。 ここの教師はあまり厄介事を好まない人たちばかりだ。 ちょっとやそっとじゃ動こうとしない。 けれど、放っておけば示しがつかないことも事実。 二、三言注意すると教師は校舎に戻っていく。 残された彼の瞳から、ポロリと涙が零れ落ちた。 馬鹿だなぁ。 羽風はスマートフォンに視線を戻し、彼女に可愛いキャラクターのスタンプを送った。 地下のライブハウスで受付をしていると、どこかで見たことのある男がいきなり自分の名前を呼んだ。 誰だこいつ。 さも知り合いかのように馴れ馴れしく絡んでくるその男は守沢というらしい。 同じクラス、と聞いたところで、不意に思い出した。 『流星隊』の守沢。 いつか、前の席に座っていた彼。 『流星隊』の先輩に使い走りにされていたあの男。 たったひとり、涙を流していた、あの。 「あぁ、そういや見かけた覚えがあるかも」 ともあれ、『流星隊』とわかったからには一応マナーを守れと伝えてもらわねば。 それを守沢に言うと困った顔で、自分の言うことなど聞かないだろう、と言って笑った。 相変わらずオドオドとしているところはあるけれど、羽風の冗談でさえまともに受け取る、真面目で明るくて元気な子だ。 会話が進むにつれ思う。 何故こんな良い子ちゃんが『流星隊』に所属しているのか。 それを本人に聞くと、正義の味方になりたいそうだ。 けれど、今の『流星隊』には内部改革が必要だとかなんとか。 余計な話は適当に聞き流す。 正義の味方、か。 馬鹿らしい。 守沢のような善人が努力したところで報われない世の中だ。 そんな世界で、夢をみたところで。 「どうした、羽風」 「……いや」 守沢の声にハッとして、羽風は慌てて笑みを浮かべる。 眼鏡の奥で赤茶色の瞳がキラキラと輝いて見えた。 早くこの場から立ち去ってほしい。 そう思った羽風は、注文を受けたオレンジジュースを無理やり守沢に押し付けた。 羽風は海洋生物部に所属しており、時々こうして水槽の中の魚たちに癒されに来る。 今日も今日とて気に入らないことがあり、部室まで足を運んだ次第だ。 いつからか部室に大きな水槽が置かれるようになった。 それは、海洋生物部部長、深海奏汰の仕業だろう。 深海と羽風は特別仲が良いわけでもないが、相談相手としては心地よいと感じる、そんな関係だった。 その深海がよく口にする「ちあき」なる人物が、同じクラスの真面目な彼だと知ったのは、つい最近だ。 一時期はまともに活動していたらしい『流星隊』の評判は相変わらず良くなかった。 そんな『流星隊』に深海が入ったと本人から聞いたとき、羽風は己の耳を疑った。 それまでずっとソロで活動していた、あの深海が。 さらに驚いたことに、守沢以外の『流星隊』に所属していた生徒たちが、ユニットを去っていったのだ。 内部改革が必要だとか言っていた守沢の顔が浮かぶ。 まさか全員脱退するとは。 彼が先輩たちから良いように扱われることは無くなったのかもしれないが、たった二人きりになってしまったのだ。 「君も大変だね~」 「ぼくはちあきを『たすけ』たいんです」 そう言って深海はニコニコと笑った。 「助ける?」 「はい。 『ヒーロー』に『たすけ』られたので」 「へぇ、そう」 「かおるもきっと、ちあきと『なかよし』になれますよ」 何を言っているのかはよくわからないが、深海は自分の居場所を見つけたのだろう。 正義の味方である、守沢千秋によって。 よかったね、二人とも。 ぷかぷかと漂う魚たち。 その水槽に映った自分の顔は、どこか嬉しそうに見えた。 学年がひとつ上がり三年生となった羽風は、新学期初日くらいは出ろという教師の言葉で渋々学校に来ている。 一応、最高学年であり、進路が関係してくるからと余計に口煩い。 羽風は重たい気分で教室の扉を開ける。 すると、突然衝撃が襲ってきた。 誰かに抱き締められていると気づいたのは、ほんのりと身体に温もりを感じたからだ。 危うく倒れそうになるのをなんとか耐えた。 「なっ、何!?」 「おはよう!」 大音量が耳元で鳴り響く。 男の声。 ゾワッと鳥肌が立った。 男に抱き締められるなんて、冗談じゃない。 なんとかして相手を引き剥がすと、その男は太陽のごとく眩しい笑顔で「羽風!」と自分の名前を呼んだ。 「男にハグされるとか、げろげろ~」 「どうしたどうした!元気がないぞ!」 バシバシと背中を叩くのは、守沢千秋。 羽風にとってあまり関わりたくない人物だ。 そんな自分と相反して、心底嬉しそうに笑っているこの男は、「お前とは三年間同じクラスだな!」と言ってはしゃいでる。 「『同じ』があると、嬉しいな!」 「はいはい、そうだね」 守沢を軽くあしらって、指定された席につく。 窓際じゃないのが残念だが、それは仕方ない。 面倒くさいなぁ。 心の中で呟くと、右隣で「やっぱり悩み事か!?」と守沢の大きな声がした。 「何で守沢くんがそこに座ってんの。 自分の席戻りなよ」 シッシッと手を振って追い払おうとする。 しかし、守沢はこてんと首を傾けた。 「何言ってるんだ。 俺の席はここだぞ?」 「……マジか」 守沢が「よろしくな!」と言って、花が咲いたように微笑む。 軽く、眩暈がした。 それから、それから。 目を覚ました羽風は、一瞬ここがどこなのかわからなくなった。 確か、学校にいて、眠ってしまって……。 授業は終わったのだろうか。 ぼんやりとする頭でふと隣を見ると、守沢の気持ちよさそうな寝顔があった。 その瞬間、ここは自分たちの部屋で、自分たちはベッドの上だということを思い出した。 羽風はES内の寮を出て、今はマンションの一室で守沢と暮らしている。 昨日も疲れてシャワーを浴びて、それで。 長い睫毛に縁取られたあの赤茶色の瞳は、伏せられた目蓋によって隠されている。 あの頃から何年も経ってるのに殆ど変わらない童顔。 羽風は守沢の前髪をかきわけて、その額にキスを落とした。 んんっ、と唸り声が聞こえたかと思うと、睫毛が震え、ゆっくりと守沢が目を覚ます。 「羽風、今何かしたか」 「別に、な~んにも」 おはよう、と言って羽風は布団を剥ぐ。 すると、守沢と自分の身体に情事の痕跡がありありと残っていて、思わず苦笑いを浮かべた。 まだ眠たそうに目を擦っている守沢に「シャワー浴びる?」と聞くと、ムスッとした顔で布団の中に引き戻される。 「なに、どうしたの」 「俺は今日丸一日休みだと、昨日言った」 「そうだね、俺も休みだよ」 「朝からイチャイチャできると言ったのは、誰だ」 「俺、だね」 「おでこに……その……キッ、キスをするのが、お前の言うイチャイチャか」 僅かに頬を染めて口を尖らせる守沢に、羽風は目を丸くする。 「え~、起きてたの~?」 「あぁ、起きてた」 「なぁに、あれじゃ足りない?」 ボンッと音がしそうなくらい顔を真っ赤にする守沢が可愛らしくて、羽風は彼の耳にチュッと吸い付いた。 「羽風っ!」 「何でこんなに可愛いくなっちゃったかなぁ、守沢くんは」 「っ!?……もっ、『もりっち』じゃないのか」 あっ、今、ときめいた。 不満げな守沢をぎゅうと抱き寄せて、羽風は額を彼の肩に押し付けた。 「懐かしい夢を見たんだ」 「夢?」 「ちっさかった炎が、いつの間にか、この身を焼き尽くすほどの業火になる夢」 守沢の手が羽風の髪を優しく撫でる。 「それは、怖いな」 「んー、怖いね。 俺の中でドンドン大きくなって、手もつけられないくらい」 グリグリと頭を動かすと、擽ったそうに守沢が笑う。 その声が、どうしようもないほど温かくて愛おしい。 羽風はそっと離れると、目を細めて言った。 「でもね、とっても優しい炎なんだよ」 羽風の細い指が、守沢の頬に触れる。 「そりゃあもう、手放したくないくらい」 守沢のキョトンとした顔を見て、羽風は破顔した。 愛しい君が、どうかいつまでも、そばにいてくれますように。 そのまま誘われるように、羽風は守沢の無防備な唇を食んだ。

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Case:L 某月某日、NEW DIMENSIONの一室にて。 凛月と嵐は向かい合う形で座り、女性週刊誌のとあるページに目を落としていた。 『あの天才作曲家兼国民的アイドルがダンサーと熱愛!?』 そんな見出しと共に、向かい合って話している男女の写真と、二人の交際を示唆する安っぽい記事が載っている。 「『二人は音楽番組で共演したことをきっかけに交際をスタート。 この日は、月永の仕事終わりに待ち合わせ、仲良く夜の街へと出かけて行った』……? 嘘くさ! 待ち合わせじゃなくて、出待ちの間違いでしょ」 そう吐き捨てる嵐に、凛月も頷きながら写真に写り込んでいる建物を指さす。 「ナッちゃんの言う通りだろうね。 これ、レコーディングスタジオの近くにあるビルでしょ。 駄目元で聞くけど、月ぴ~このときのこと何か覚えてる?」 二人の側で鼻歌を歌いながら作曲に取り組んでいたレオは、顔も上げずに一言「ん~、そんな奴知らん!」とだけ答えると、また陽気な鼻歌へと戻っていく。 自分のスキャンダルが出たと分かっているのかいないのか。 多分、分かってはいるが、どうでもいいのだろう。 そんな当人の様子に、嵐は片手を頬に添えて溜息を零した。 「……こんなガセネタ、信じちゃう人なんているのかしら」 「賢いお姫様たちは信じないだろうね~。 けど、よっぽど物事を信じやすいか、びっくりするくらい鈍感な人間なら、信じないこともないんじゃない? 現に、うちにはそのどちらもいるし」 言った瞬間、ドアが開き、すぐさま威勢のいい声が室内に飛んできた。 「レオさん、一体どういうことですか!」 「ほら、一人来た」 やって来た司は、眉を吊り上げ、大股でズカズカとレオに詰め寄っていく。 「瀬名先輩というものがありながら、他の女性とdateなんて! 騎士である前に、一人の男性として許されません……っ!!」 掴み掛からんばかりのその勢いに、嵐が立ち上がり、割って入る。 「ちょっと落ち着いて、司ちゃん」 凛月もまた欠伸をかきながら、末っ子の暴挙をやんわりと嗜めた。 「そうだよ、ス~ちゃん。 そんなガセネタに大きな声出しちゃダメ」 先輩二人の言葉に、司はピタリと動きを止めると、小首を傾げた。 「え……ガセネタ、なのですか?」 「そうよォ。 この一緒に撮られてる子、前に音楽番組で共演したときからレオさんのこと狙ってるっぽかったでしょ」 「この記事だって、炎上商法を狙って向こうの身内がリークしたんじゃない?」 司が落ち着きを取り戻したところで座り直すと、嵐はスマートフォンを取り出して何やら調べ始める。 「……でも、SNSの反応を見る限り『レオ様がこの程度の女相手にするとは思えないんですけど』『ガセネタに、次のKnightsのチケット賭けてもいい』って感じで、ほとんど相手にされてないみたいだし、アタシたちにとっては大した傷にはならないと思うわ。 ダメ押しで、明日会うファンの子たちにレオさんから直接フォロー入れてもらえば、すぐに鎮静化するんじゃないかしら」 うんうんと凛月も頷く。 「お姫様たちはそれで大丈夫だと思う。 むしろ、厄介なのは……」 言った瞬間、再びドアが開く音がした。 そこに立つ人物を見て、凛月と嵐は「「あ」」と同時に口を開ける。 それから、できるだけ平静を装って彼女に声を掛けた。 「セッちゃん、おつかれ~……」 「……思ったより早かったわねェ、泉ちゃん」 聞こえているのかいないのか、泉は『美人が凄むと三割増しで恐い』を地で行く仏頂面で、凛月の隣へ無言のまま腰を下ろした。 その目は正面を向いているものの、心はどこか別の場所に飛んで行ってしまっているようだった。 「絶対、記事のこと気にしてるわね」 「信じちゃってるでしょ、これは」 側で嵐と凛月がひそひそしていても、微動だにしない。 どうしたものかと思案するなか、全く空気を読まない男が一人。 「おっ、セナ。 来たのか! CMの撮影、どうだった?」 瞬間、泉の肩がピクリと震える。 「……『どうだった?』」 固く引き結ばれていた口から怒気を孕んだ声が発せられたかと思えば、泉は素早く立ち上がってレオの側にいくと、その前のテーブルを手の平で思い切り叩いた。 バンッという乾いた音が室内に響く。 「スクープ撮られた人間が、何暢気にしてるわけ?! あんたが誰と付き合おうがデートしようが、別にいいけど、ユニットの皆に迷惑掛ける真似だけは止めてよねぇ!」 こんな風に言われれば、大抵の男は怯むなり、反省するなりするものだろう。 けれども、レオはただ不思議そうに泉を見つめ、 「何だ、セナ。 まさか、あんな記事、信じてるのか?」 と、問い掛けると、ファンからの『レオ様』という呼称に違わない優美で自信に溢れた笑みを浮かべてみせた。 「信じるわけないよな、おれがあんなのを相手にするなんて。 あの記事が、世の中に掃いて捨てるほどあるつまらないガセネタの一つだってこと、芸能界長いお前が分からないはずないもんな」 泉の頬がみるみるうちに赤くなっていく。 そして、 「~~~ッ信じるわけないでしょ! あんな記事!!」 声を張り上げ、「ちょっとスタッフさんのところ行ってくる!!」と今来たばかりのドアからまた外に出て行ってしまった。 静けさを取り戻した室内で、嵐、凛月、司はそれぞれに口を開く。 「……なんか、年々、レオさんは泉ちゃんの扱いがうまくなってきてるわねェ」 「愛だよ、愛」 「私、無駄に怒ったので、何だかお腹が空いてきました」 打ち合わせを兼ねてお茶にしようと、三人がティーポットやカップ、茶菓子の準備を進めるなか、また作曲に熱中していたレオは完成したばかりの楽譜を掲げて高らかに言う。 『あの芸能人に初スキャンダル!? お相手は……』 テレビにそんなテロップとともに映し出されているのは、一組の男女。 「もう、アタシこれ見てびっくりしちゃったわ」 液晶を見ながら、そう言うのは嵐。 その言葉に、向かいの席で突っ伏していた凛月も顔を上げ、同じように男性と並び立つ泉を見つめる。 「あ~、朝から話題になってたね~。 テレビだけではなく、ネットニュースやSNSも今日一斉に情報を解禁し、そのどれもが番組のテロップと同様に一見しただけでは映画の宣伝ではなく熱愛報道と勘違いしてしまうような仕様になっている。 おかげで、泉ファンは、朝から悲鳴と安堵の溜息と主演決定の喜びの声を代わる代わる上げることとなった。 「この番宣の仕方は賛否両論だと思うけど、映画の内容とも合ってるし、話題性を狙うなら効果は抜群だよね~」 「確か、原作は去年大きな賞を取った小説よね……どんな内容なの?」 「清純派女優が、オーケストラ指揮者との不倫に溺れて堕ちていく話」 嵐が眉を顰める。 「……その内容で泉ちゃん使うの、よく事務所がOK出したわね。 世間ではプロ意識の高い正統派アイドルで通ってるのに」 「セッちゃん、最近、ドラマや映画のオファーも増えてきてるし、何より、本人が挑戦したいって言ったから。 それに、内容の割には、匂わせる程度で過激な演出もないみたいだよ」 そこで、凛月は左手の人差し指を立ててみせた。 「後、重要な前情報がもう一つ」 「あら何?」 「このセッちゃんの相手役のオーケストラ指揮者っていうのが、全然音楽に縁のない俳優を使うみたいなんだけど、作中には結構ピアノを弾くシーンが出てくる。 つまり、演奏シーンには、代役が必要です」 「……」 「そして、この代役に選ばれたのは、本業は作曲家兼アイドルの男で、映画のBGMを全て担当することが決まっています。 おまけに『撮影シーンを全部自分の目で見た上で、その場で最高の一曲を完成させる!』と芸術家としては、もっともらしいわがままを言い出しました。 それに対し、監督も『撮影現場で、即興で完成させた曲を使うなんて話題になる! 素晴らしい!!』と了承してしまいます。 ……さて、この代役とは誰でしょ~?」 「まさか……」 唇を引き攣らせる嵐に、凛月はにっこりと笑う。 「ピンポーン、月ぴ~です。 なので、セッちゃんの撮影シーンには四六時中月ぴ~がくっついています」 「……それは、過激な演出になるはずがないわね」 「愛だよ、愛。 しかも、かなり重めの」 タイミングよく、テレビからもこんなナレーションが流れてくる。 『実は番組は、この映画に関して極秘情報を入手しています! 実は、主演を務める瀬名泉さんと縁の深いある人物も制作に係わるということで、その方から今回メッセージをいただきました!!』 もちろん、画面には誰か特定できるような映像はでない。 けれども、嵐と凛月の頭には、いつだって一途で情熱的な愛情を自分のミューズに全力で捧げている一人の作曲家の姿がはっきりと浮かんでいた。 『作曲家として、この映画で新しい挑戦ができると思っています。 今からすっごく楽しみです!』 (……どの口が言うか)と、二人が内心で呆れながらツッコミを入れたのは言うまでもなかった。 END.

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#あんさん腐るスターズ! #天祥院英智 カタチのないもの【英泉】

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愛なんて形の無いものを、俺は信じてすらいなかった。 それを教えてくれたのは、同じクラスの天祥院英智だった。 どうでも良かった感情を俺に教えて、与えて……刷り込んだのは天祥院。 天祥院無しじゃ居られなくなったのも、全部彼のせい。 でも、それが嫌じゃないと思ってしまうのは、もう惚れてしまった弱味とか、何かの代償なのかもしれない。 「瀬名くん」 あの声で呼ばれるだけで、胸がドキドキする。 本人は普通に話しているだけなのかもしれないけど、こちらからしたら優しい声で呼びかけられているような気になってしまって、もう駄目だった。 「瀬名くん……?」 「ん? あぁ……何?」 ……なんて考えているうちに、天祥院に名前を呼ばれていたようだった。 話しかけられたことに気づかずに物憂いに耽っていたことが恥ずかしくて、つい素っ気なく返してしまう。 それでも天祥院は気にした様子はなく、言葉を続けた。 「退屈になってきたかな?」 「いや、そうじゃないんだけど……あんたの部屋、広いなぁって?」 「どうして疑問形なんだい? 確かに、一般的な人より少しばかり大きいかもしれないけれど」 「相当大きいと思うけど……ベッドもふかふかだし」 俺が今座っているのは、天祥院がいつも寝ているベッド。 ふかふか、もふもふ。 座っただけで分かる高級感。 ちなみに天祥院は俺がベッドの上で軽く跳ねているところを、ソファから優しい眼差しで見守っていた。 「飛び跳ねたくなるのは分かるけど、あんまり跳ねると埃が立ってしまうよ」 「だってふかふかなんだもん」 「そんな可愛い言い方……ずるいねぇ、君は」 「は? 何のこと?」 「いや、君は無自覚のままで居てくれ。 意図してやっていたら興ざめだからね」 「意味分かんない」 「……寝っ転がらないのかい?」 「えっ、いいの?」 「うん、どうぞ」 お言葉に甘えて寝っ転がると、ふかふかの掛け布団がゆっくりと俺の身体の形に沿って沈んでいく。 なかなか無いフィット感に、俺はここから動きたくなくてしょうがなくなる。 「わ、すごい」 「何がだい?」 「フィット感が最高。 俺ここに住みたい……ずっと布団の上に居たい」 「僕は別に構わないのだけれど……お気に召したようで良かったよ」 「天祥院はこっち来ないの?」 「おや、行ってもいいのかい? 今そっちに行ったら、僕は君を抱きしめてしまいそうなんだけれど」 「え、いいんじゃないの……?」 「そうかい? なら、僕もそちらに行こうかな」 言うもすぐ立ち上がった天祥院は、ゆっくり俺のいるベッドへと近づいてくる。 ベッドの少し奥のほうに行けば、隣に天祥院が寝そべった。 「まさか自分のベッドの上で、君の隣に寝そべることになるとは思わなかったよ」 「たまには悪くないでしょ?」 「そうだねぇ……こんな機会はそう無いと思うから、思う存分やりたいようにしてみようかな」 「えっ、何するつもり……」 「さぁ? 何だろうねぇ?」 言うや否や、天祥院は俺の身体を優しく引き寄せてくる。 天祥院の温もりに包まれ俺は一瞬固まってしまうも、その暖かさに思わず落ち着いた溜め息を零した。 「瀬名くんは、抱きしめられるのが好きだよね」 「まぁ、嫌いじゃないけど」 「ふふ……相変わらず素直じゃないね。 今自分がどんな顔をしているか分かっているのかい?」 「どんな……って」 「ひどく落ち着いた顔をしているよ。 僕からしたら、よほど抱きしめられるのが好きだと見えるね」 「悪くないってだけだし……」 「まぁ、言っていなさい」 「うわ、チョ~むかつく」 「よしよし」 「あっ、ちょっとぉ……それやめてってば」 「嫌いじゃないくせにねぇ?」 「…………」 頭を撫でられて咄嗟に振り払おうとするも、それは天祥院によって阻止されてしまった。 分かった風に言われて悔しい気持ちはあるけど、頭を撫でられる行為が嫌いじゃないのは事実で。 嫌いじゃないけど、恥ずかしいからそれを言葉にしないでほしかった。 「可愛いねぇ、瀬名くん。 大きな猫みたいだ」 「ねこ……」 「うん、猫。 可愛い可愛い」 「全く嬉しくないんだけどぉ」 「その間延びした口調も、ね」 「はぁ……?」 俺に対して可愛いを繰り返す天祥院。 ファンの子や王さまから綺麗や格好いいとは言われても、可愛いとはあまり言われないのでちょっと擽ったい気持ちになる。 ふわふわの布団の寝心地の良さも、今は顔を隠せない要因になっていた。 掛け布団が俺たちの身体の下にあるということは、そういうこと。 「あんたの可愛いと思うツボがよく分かんないよねぇ?」 「それは惚れた弱味というものだよ、瀬名くん」 「えぇ……」 「好きな相手が何をしても、可愛いと感じてしまうんだ。 これが惚れた弱味だよ」 「ふぅん? そういうものなんだ?」 「そうだよ。 瀬名くんは僕に対してそういうのはないのかな?」 「可愛いはあんまりないけど、格好いいとかならある……といえばある」 「例えば、どんな時だい?」 「知りたいわけ? まぁ、いいや……ライブ中とか」 「ライブ中?」 「キラキラしてて……全力でアイドルしてるって感じ。 格好いいよ」 「そうかい? ありがとう」 至近距離で微笑まれたら、こちらの心臓が持たないというものだ。 天祥院は格好いい。 俺と居る時は大概優しいし、これ以上なく良くしてくれる。 さり気ない気遣いが出来るところもポイントが高いと思う。 「瀬名くんも、ライブ中は格好いいよね。 僕の前ではこんなに可愛いのに」 「あんたの可愛いの定義ってどうなってるのさ」 「瀬名くんは可愛いよ? とてもね」 「それに俺は何て言ったらいいわけぇ……?」 「ふふ、その戸惑った表情だけでじゅうぶんだよ」 「変わり者」 「変わり者じゃないと、夢ノ咲学院の生徒会長は務まらないとは思わないかい?」 「……確かに。 でも自分で言うかなぁ?」 「誰も指摘してはくれないからね。 こうなったら自分で言うしかないんだよ」 「俺が指摘してあげる。 あんたは変わり者だよ」 「そうしたら、自分で言わなくて済むね?」 「バカじゃないの?」 「おや、心外だな。 真面目に言っているのに」 「それならもっとバカだよ、あんた」 「馬鹿で結構さ」 「認めちゃうんだ。 はぁ、呆れた」 俺のどんな言葉も、天祥院からしたら簡単に認められちゃうくらいに刺さらなみたいで、俺はただ呆れるしかなかった。 普通、バカとか言われたらちょっとは怒ったりするもんでしょ。 まぁ、抱きしめられながら思うことじゃないんだろうけど。 「瀬名くん?」 「なぁに」 「キスをしてもいいかな?」 「はぁ?」 「……ふっ、その顔いいね」 「…………性悪」 「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくよ。 からかうのもあるけれど、僕は本気だよ?」 「褒めてないし……何なのあんた」 「僕? 君の恋人だよ」 「それは知ってるけど」 「ねぇ、瀬名くん? いいかな」 「……もう」 天祥院にお願いされると弱いのが、恋人になった弱味だ。 軽く額にキスを落とされ、次は鼻のてっぺん、最後は唇にそっと口づけされる。 どことなく甘い空気が俺たちを包み、俺は逃げ場のない気持ちに頭を抱えたくなった。 「好きだよ」 「……ん」 「瀬名くん、好きだ」 「……うん」 慣れない甘い言葉。 どこまでも好意に慣れていない自分が悔しくなる反面、ここまで愛されて自分は幸せだとも思った。 好きな人に好きだと伝えられる。 たったそれだけのことが今は嬉しくて。 「俺も、好き……」 「うん、知ってる」 「好きだよ、天祥院」 「うん……」 短い返事と、やっぱり優しく頭を撫でられるだけ。 それだけなのに満たされる心。 俺は一体どうしちゃったんだろう。 天祥院と居ると俺が俺じゃなくなるような、そんな気分になった。 好きだと言うだけで沢山の勇気がいるし、天祥院に頭を撫でられるとホッとする。 何がそうさせているのかは分からないけど、今はこのままでいたかった。

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